質問「お位牌の裏側に故人の年齢が書いてあるけど『享年とあるなら満年齢が、行年ならば数え年が記してある』と聞きました。本当ですか?」
回答「まったく根拠のない言説です」
理由「享年は年を享ける(授かる)という意味です。仏教界隈で使う行年の由来は、残念ながらよく分かっていません。ただ、どちらも古くから中国で使われてきた故人の年齢を表す言葉です。
中国や日本では、モノは一からかぞえ始めるという原則と太陰太陽暦の制約から、年齢は数え年でかぞえてきました。だから享年も行年も当然、数え年でした。
それが日本では明治時代、西洋化の一環として役所で満年齢を使い始めます。でも庶民はまだまだ数えの方がしっくりきたらしく、小学校に上がる年齢を“七つゆき”“八つゆき”などとわざわざ数えに換算していました。
日本で満年齢が定着したのは、敗戦後の昭和二十五年に『公文書では満年齢を使う』と法律に定められてからのことです。
それ以降、行年として満年齢を適用するお寺がパラパラと出だします。仏教界全体で何か取り決めをしたわけではないので、それぞれのお寺の判断で行いました。だから現在では数えを使う寺と満を使う寺が半々くらいと、非常に混乱した状況にあります。
一方、新聞やテレビなどのマスコミも享年に満年齢を適用するようになります。ただし、やはり明確なルールがある訳ではなく、新潮文庫を開くと夏目漱石は『享年・数え』で川端康成は『享年・満』で記載しています。そこで、亡くなったのが戦前か戦後かで分ける方針なのか?と尋ねたところ、『特に規定はなく、出版物ごとに編集者が決めている。過去に数えで記載した人物を今後、満に改める可能性もある』との回答で、仏教界と同じくテキトーであることが露呈しました。
そのようにどこもかしこも混乱した状況なので“享年は満、行年は数え”という謎の言説が入りこむ余地が生まれたものと推察しますが、そこになんの根拠もないことはお判りいただけたかと思います」